戻る>このページ
2001年度食料班活動記録

(文・写真 コウノトリ市民研究所研究員 稲葉一明)

 市民研究所の裏の研究課題でとも言える「食」についての研究活動報告をし たい。  この活動は2000年度から自然発生的に習慣化した、「お昼に大鍋をする」と いうことが高じて、熱心な研究員を中心に発展して来たもので、山菜、貝類、 鹿肉、とエスカレートし、最近では但馬産自給率100%の鍋や、鹿一頭を猟師 に頼んで撃ってもらったり、鶏の生命を頂戴して食の原点を垣間見るというよ うな、一般ではなかなか体験できない領域にまで進んできた。  ほかのところに書いたものを再編集し、また新たに書き下ろしたものを加え、 2001年度の活動記録をここにまとめてみたい。
 山菜てんぷら、タンポポ味噌汁 (2001年4月22日)

 タンポポ調査に引き続き行った野草を食べる会。 てんぷら:コゴミ、クズ、カラスノエンドウ、ユキノシタ、タチツボスミレ、 ミツバ、シャク、タラノメ、ヨモギ、タンポポ(花)、フキ、ワラビ、、、  タンポポの花は美味しかった。結構ボリュームがあり、形もいい。お勧めは クズとカラスノエンドウ。参加者の評判もよかった。どちらもほのかに独特の 風味がある。簡単に採集できる。  味噌汁:具はタンポポと破竹?のタケノコ。  当初味噌汁はするつもりはなかったのだが、高校生研究員からの強い要望が あり、味噌汁が作られ始めた。タンポポの葉っぱが大量に入った味噌汁だが、 これがなかなか行けた。まあ、菜っ葉の代用品にはなる。苦味もマイルド。 まずかったので大量に余ったという話も一部で言われているが、それも真実か もしれない。

春の山菜。上段左から、クズの芽、スミレ、カラスノエンドウ、ヨモギ
下段左から、コゴミ、アブラナ科の何か、ワラビ、フキ

タンポポの花のてんぷらを揚げる
 シジミ汁 (2001年5月27日)

 コウノトリの郷公園前のほ場整備田の水路はコンクリート3面張りである。 生き物にはよろしくない環境である。しかし、そこには二枚貝が繁殖していて、 ザルですくうと簡単に大量に捕ることができる。  マシジミといって、きれいな川に棲んでいる黒くてやや緑っぽい貝である。 スーパーで売っているのは、ほとんどがヤマトシジミといって、こちらは下流 の汽水域に棲む別の種類だ。  コウノトリ市民研究所では研究の一環として味噌汁にして食べてみた。身は 小さいがぷりぷりと非常に美味しい。どこで捕れたか解らない油臭いようなパッ ク入りのシジミなんかより、自分達で捕ったやつの方がうまいに決まっている。  シジミのうまみはコハク酸で、その含有量は他の追随を許さない。また、メ チオニンというアミノ酸とビタミンB12の働きで、肝臓にとてもよいそうだ。  僕たちが知らないだけで、自然の恵みはすぐ近くにいっぱいあるんだろうな。

水路でざくざく採れるマシジミ
 イガイ汁 (2001年6月24日)

 奥田研究員がムラサキイガイを大量に持ってきた。   竹野の港の船が繋いであるロープに無数にくっついているムラサキイガイを がりがりと獲って、それをきれいに洗ったものをだ。  すこぶる美味である。有毒物質の含有等少し懸念されるが、たまに食べるぐ らいならまあいいだろう。かわいい幼稚園ぐらいの女の子が熱心に食している 姿が印象的であった。やはり美味しいものは美味しいのだ。  磯に行けばニシガイがあるし、ちょっと釣りをすれば、ハゼなんか簡単に釣 れる。海辺にはいくらでも食べるものがあるのだなあと感じる。  また、炭焼き小屋の前の水路に味噌汁の残りをやったりするもんだから、た くさんの生き物たちが集まってきて、大変楽しい観察ができた。ビオトープに 餌をやるという発想が実感として理解できたのもこのときである。

やみつきになる味、ムラサキイガイ
 猪鍋、鹿焼肉 (2001年10月28日)

 この秋、野外テーブル、ベンチ、大型お玉など野外料理器具を追加導入した。 食べ物研究の環境が充実しつつある。  鍋奉行鳴海研究員の指揮のもと久しぶりに大鍋をやったのだが、たいへん美 味しかった。イノシシ鍋と、鹿肉の焼肉をした。  鹿肉は臭いとの前評判だったが、炭火の網焼きだったせいか非常にやわらか くてかつ美味しかった。  鹿肉はやはり牛肉に近い味だ。冷蔵庫にまだだいぶんあるので、マツタケ山 施業のときにもやることにする。  野外調理用のクッキングテーブルは非常に役に立った。それと、できるだけ 参加者はマイお椀を持ってきたほうがいいという結論に達する。

鹿肉はよく洗い血抜きをするのがポイント
 鹿魚鍋 (2001年11月25日)

 マツタケ山施行の合間に鹿と日本海の魚、地場野菜の鍋をする。  都市部など県外からも多数参加者があり大盛況であった。  市民研究所の大鍋も但馬産自給率ほぼ100%が実現し、好評を得て大満足。 とかく評価の低い鹿肉だが、とてもおいしいということがあらためてわかった。 やや肉の量が少なかったのが悔やまれたが、参加者が予想以上に多かったので 仕方がないか。  蕎麦団子を鍋にぶち込んだのだはちょっと失敗だった。そばの香りが豊かで、 味を知っている人にはそれなりの評価があったが、子供たちは総すかんであっ た。

大鍋の出来上がりを待つ子供たち

本日のメニュー
 鹿鍋 (2001年12月9日)

 つるかご教室無事終了。参加者スタッフ合わせて約50人。多かった。  鳴海班長不在のためか、大なべがなかなか煮えあがらずに苦労したが、大変 よいだしが出た。我が家の家庭菜園のダイコンとニンジンも入れた。  残った大鍋をほっておいたら、知らぬ間に高齢者の団体が自分でよそって食 べていた。あわててそばに行ったら、「募金すれば食べていいんでしょう?」 と聞くので「そのとおり、余っているので食べてもらったら助かる」といいま したら、話がはずんで、コウノトリのこととか、三木から来たとかいろいろ話 した。  一応材料費があるので募金してもらったら助かるというと、多くの人が財布 を開けて募金しようとする。しめしめと思い、10人ぐらいいはいたので、こ れなら2千円ぐらい入るかもとほくそえんでいたら、リーダー格のおばさんが、 募金かごに入ったお金をわざわざ取り上げて、出した人に戻し、「私がまとめ て募金するからいい」と強く言うのだった。  まあ、それでもまとめてしてくれればいいと思い、見ていると、その人、食 べるのが遅くて最後に食べ終わり、まとめて募金しただけれど、なんかあんま り増えていない!  いったいいくらしてくれたのかなあ・・・。まさか100円ではないだろう なあ。いや、募金だからいくらでもいいんだが、わざわざみんなが善意で入れ ようとしているのを阻止して、それはないでしょう。まいった。別れぎわに 「ありがとう。またきでくださいね」といったら、返事がなかった。
 熊鹿魚の網焼き (2001年12月23日)

 雪のビオトープの調査、クラフト、熊・鹿・魚を食す会、夜間生態調査、今 年の反省会と盛りだくさんの内容になった。自家製の甘酒も出た。  特に反省会は途中からよく覚えていないほど楽しいものだった。コウノピア のセキュリティシステムの完璧さを実感したのもこのときだ。コウノピアで迎 えた朝は、朦朧としたすがすがしさでいっぱいであった。

ウノピアの囲炉裏でマッタリ焼肉。はじめて熊食ったよ
 鹿肉解体 (2002年1月25日)

 但馬県民局の森林林業課に紹介いただき、出石町役場を通じて、鹿を一頭入 手するよう手配した。  24日の夕方にお願いしたのだが、猟師さんが「そんなら撃ってくるわ」と、 25日の朝に山で撃ってきて、その日の夕方に急遽年休を取って役場へ受け取 りに行った。  山に鹿が増えて農林産物に被害を及ぼし、所謂有害獣となっている。鹿肉は ヨーロッパなどでは高級食材であるが、日本では評価が低く、肉としての流通 販路はほとんどない。一般的に食べる食文化がないのと、肉の歩留まりが低い からだ。しかし、背肉の刺身には美味で、これまで行った鹿鍋でも肉も血抜き をしっかりすればおいしいことが実証されている。  実際食べてみればわかるのだが、一昔前の輸入肉よりもずっとおいしい。比 較的牛肉に近い味であり、脂肪が少なくヘルシーで、一般的牛肉と比べても遜 色があるとは思えない。  一説によると枝肉一頭分7000円程度との話がある。お礼の意味と、猟師 さんへの感謝も込めて、1万円分でお願いした。「そんなんいらん、ただでい いよ」とのようであったが、その日撃ってきた出石町細身産メス3歳一頭分 (頭を落とし内臓を抜き皮をはがしたもの)に猟師さんのストックしている冷 凍モモを3本ほどを追加してくれた。  コウノピアへ運び、ブロック肉にしようとしたが、なかなか手ごわく、皮の 残り、汚れ、膨大な結合組織などを除くとすっかり疲れてしまい、モモひとつ をブロック肉にし、背肉を取り分けたところで、あとはそのまま冷凍庫へ。肉 を食べるということはこういう事なのだ。生き物を殺し、血まみれになってば らばらに切り分け、、、。  背肉はその日参加した小野山、稲葉、佐田、伊地智で4等分した。自宅でしょ うが醤油で食べたのだが美味この上なかった。子供にたくさん食べられてしまっ たのが残念。
 鹿鍋 (2002年2月10日)

 冬鳥調査の後、鹿鍋を振舞う。鳴海班長の発案で金属製のかまどを導入し、 熱効率が上がり炊き上がりがよくなった。  大雪あとだったが、コウノピアの囲炉裏を囲んでの昼食は、鹿肉がたっぷり 入った汁、ファミリーな雰囲気、冬鳥調査に参加された方にも好評であった。 募金も予想以上に集まった。シカの骨にかぶりつく少年の姿に、最近感じるこ とのない安堵感を覚えた。

鹿肉を食う
 鹿鍋、焼肉 (2002年2月17日)

 アカガエル調査のあと、鹿鍋と焼肉をする。鹿肉の燻製も寄付があり、こじ んまりと楽しい会であった。やはり冬の日は囲炉裏端が最高。

炭火焼は最高
 ブロイラー種鶏廃鶏解体 (2002年2月21日)

 県民局の農業振興課の人に紹介してもらい、地元のブロイラー種鶏場からブ ロイラー種鶏の廃鶏を10羽いただいた。  夕方年休を取って廃鶏を受け取りに行く。ブロイラー種鶏の廃鶏は予想以上 に大きかった。5キロぐらいあるんではないだろうか。  肉養鶏の卵を取るものだから本来肉質はよく、しかも平飼いで比較的健康的 に1年以上飼われているから味が濃いのだ。一般的なブロイラーは60日ほど で出荷だからやわらかいが味がない。最近はやりの地鶏とか100日鳥とかも せいぜい150日程度しか飼われていない。  同じく永く飼われているものに採卵鶏の廃鶏があるが、こちらは卵を採るた めのものだから肉質は育種上考えられていない、味はあるがやせていて非常に 硬い。つまりブロイラー種鶏の廃鶏というのはもっともおいしい鶏肉であると いうのが僕の考えである。  鉈か、解剖バサミで首を落とすのだが、1分ぐらいは元気がいい。一人が押 さえつけて、一人が首を落とす。たいへんな作業であった。その惨状は詳しく は書けない。5羽もするともう次に進む気力がうせてくる。残酷だという人も いるかもしれないが、我々が日ごろきれいにパックされたブロイラーを食べて いるということがどういうことなのか考えてほしい。  動かなくなると同時にそれは生き物でなく食べ物になる。大鍋に沸かした湯 に浸け羽をむしり、内臓を出す。種鶏だから玉紐も取れる。これもおいしい。  郷公園の三橋獣医師に解体の仕方を教わる。10羽の鳥たちはやがてもも肉 であったり、玉紐であったり、中抜きと体であったり、規則性のない肉に変化 していった。  大鍋できれいに洗い、もも肉を2本づつ試食用に分け、残りを冷凍庫へ放り 込む。大量だ。ブロイラー種鶏10羽分は鹿一頭分の倍程度の量である。  種鶏場へコンテナを返し、自宅へ戻ったのは夜10時を過ぎていた。やや食 欲はないものの、さっそく蒸して芥子醤油でいただく。激しくうまい!。
 鹿猪鳥鍋 (2002年3月17日)

 「キノコの種を植えよう」のお昼に大鍋をした。鹿、猪、ブロイラー種鶏廃 鶏の3種の肉をぶち込んでいる。鳴海奉行の持ってきた日本海の魚も入れる。 野菜はコウノトリ朝市の地場野菜。昨年植菌したほだぎから出たシイタケも4 個入れる。これ以上の豪華な鍋はあまり考えられないだろう。
 鹿猪鳥鍋、焼肉 (2002年3月24日)

 定例調査の昼にまたも大鍋、焼肉をする。鳴海奉行が豊岡市奈佐産の備長炭 の端物なるものを無料で仕入れてきた。やはりマングローブ炭と火力が違う。 ここで若干の言い訳をしておくが、本来なら郷公園の山の木から作った炭なり 薪を燃料にするのが理想であるのだが、現状ではそこまで至っていない。  鍋は味噌を変えたため量を間違ったか大変からく、汁は飲むものではなくタ レ的に食するようにとの奉行のお達しが出る。しかしなかなか美味しかった。 鹿、猪、鳥、日本海の魚、地場野菜。  次に焼肉を食う。鹿、猪、鳥、アカイカまである。炭火焼はやはりうまい。 しかし奉行の塩コショウの振り方は豪快すぎて辛かったのである。

鹿肉を捌く
 豊岡盆地にはさまざまな食材がある。食べるということの隣には自然環境が あるのが本来の姿だ。  これまでに山菜、地場野菜、モクズガニ、熊肉、鹿肉、鶏肉、日本海の魚、 ムラサキイガイ、マシジミ、さまざまなものを食してきた。今後は、カメ、 ブラックバスなどにも挑戦したい。コウノトリ市民研究所は、今後も「食」と いうものに正面から取り組んで行きたい。